県大会は適当にホワイトボックスを積み上げて上演したが、
終わったところで越智が「色が寂しいので『赤い鳥居』を使いたい」と言う。
何度も書いた通り鳥居はすでに「俺たちの甲子園」を上演した際作製していた(加藤さんが)から使うことに問題はない。
問題はないがあのインパクトである。(だって「神社」の「鳥居」だもん。)
越智は「赤い色がほしいから」と言うが、
舞台に赤い色をつけるだけで事が終わるはずもないんで、
「『鳥居アリ』の筋になるようになんか考えてみようか?」とこちらで言うと、
「ちょっと考えてることあるんです」とのことだった。
そりゃそうか。
それでこのあと例の「神頼みシーン」が生まれるのだが、
先日脚本を読み返してみると県大会の時点ですでに(当然だが)「きょうは塾に行くふりをして」の大枠はできあがっていてそちらの方がいっそびっくりだった。
下手な演劇部が一生懸命主役の来ないリハーサルに臨んでいる。
彼らの危機は駆り出された助っ人のミナトくんにはどうすることもできないが彼は彼らを応援している。
音響の声でもう一度彼らは動き始める。
どうすることもできないとき、
そうだ人は祈るのだろう。
ミナトの祈りは最初から彼の心の中にはあったのだ。
祈りとその答えはしかしこの鳥居のシーンによって初めて舞台上で可視化され観客は演者と感情をともにする。
県大会が終わった時点では何もかもがまだ混沌としていた。
審査員からは多くのダメ出しをもらい(5日間しか練習もしてなかったし)、
特に「ユウカが突然出て来た感」にはこちらとしても頭を抱えていた。
だいたいにおいて越智が広げた風呂敷を私が畳んで行くのが常なのだが、
今回は畳んでも畳んでも何か広がり続けるような、
どんな芝居になるか手に負えない、
ままよ最後に広がるだけ広げてどんな舞台が立ち上がるのか観てみよう、
そんな気持ちで四国大会に臨んだのだった。