曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

ビデオカメラバナシ。(春季全国報告その5)

帰ってきたら留守電が入っていた。
ビデオカメラが届いたらしい。
演劇部用に予算が下りたので一番安いのを注文しておいたのだ。
なんと39800円だ!
現在使っている(いた)ビデオカメラは、
4年前に演劇部が「テレビ愛媛賞21」受賞の際、副賞の30万円だかで買ったものだ。
あの時は高かった。
今でもいい物は高いけど、前とおんなじ機能のものなら39800円で買えるのだ。

さて、
なんで新しいビデオカメラが必要になったかというと、
今まで使っていたものがとうとう壊れてしまったからだ。
1年半ほど前から時々イヤイヤをするようになっていたのを今までなんとか拝み倒して使っていたのだが、
ついに力尽きたのはまさに3月、全国大会本番の直前だった。

「先生、ビューカムがつきません。」
本番3分前、
小道具のRが変に静かに私に言うので、事の重大さが知れた。
私も驚いた声を上げなかった。
「一度電源を切って。それでもだめなの?」
「やってみました。動きません。」
一度コードを抜いてみた。
それからなでてみた。
文系集団だからこんなことしかして来なかったのだものなあ。
笑えるくらい情けない。

ここまでこの芝居を創ってきて、
東京に来てからも役者を最高に生きた形でこの舞台に載せようとどれほど心を砕いたかしれない。
本当にどれほど心を砕いたか知れないのだ。
四国で1位であれば、
夏の全国であれば、
そこで入賞すれば、
NHKエンタープライズが何方向からもカメラを回し、
何百回もの視聴の上で最高のカットを探して素晴らしい作品にし上げてくれるのだろうに、
私たちのこの舞台は、わずかにこのカメラに映像を留めることさえできないのか。

「しかたがないね。」
「はい。」
無念そうにRが返事する。
頭のどこかで考えていた。
きっとこの舞台は素晴らしくいい舞台になる。
それが記録に残らないのもこの芝居の運命だろう。
私はRの3列ほど前に腰を下ろした。
その時、
「ピコ!」という音がした。
振り返る。
Rが顔を輝かせている。
私がおそるおそるピースサインを出すと、
Rは晴れやかにピースを返した。

アナウンスが入って劇団四季の銅鑼が鳴り、場内が暗くなっていく。
この芝居は成功するな、
それはそれで、私は思った。
都合のいい考え方だ。
音楽が流れる。
心臓が高鳴る。
緞帳が開いて、最後の「花柄マリー」が始まった。
そう言えばこの時のビデオを、私たちはまだ観ていない。