曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

T原。

T原はケンシローのクラスの委員長である。
頭もいいし、真面目に授業も受けてるんだけど、
最後の授業でノートを提出しない。
「プリント貼ってないんです。」
「ノリくらい誰かに貸してもらいなさいよ。」と言うと、
「明日出します。」と答える。
それで、ちょっと不安になる。

教員でないとわかりにくいかもしれないが、
ここでノリを借りる力のない生徒というのは、昨今多く存在するのである。
もちろん私はT原に「ノリを借りる力」があると信じてさっきの発言をしている。
ノリを借りる力、それは誰かに何かをお願いできる力、
快く貸してやろうと言う者をそこに存在させている力、
借りることによってみじんも相手より低位に立たないでいられる力。

誰のノリでも遠慮なく奪い取って我が物顔に使う者もいる。
そんな野蛮な方法でも、
それはそれで「ノリを借りる力」の一つである。
でもT原はそんな生徒ではないのだ。

遠くの席からケンシローが、
「貸してやろうか?」と声をかける。
T原は一瞬、面倒なことに巻き込まれた、といった顔をする。
それから、
「しゃーなしで。」
と答えた。

私は感心する。
うまい、T原!
それから大声で注意する。
「T原、あなたなんですか!
 せっかくノリを貸してくれようと言ってるのに『しゃーなしで。』って、
 それってどうなの、人として!」
クラスはどっと笑う。
T原もしかたなく笑う。
ケンシローがもう一度言う。
「T原、ノリ、貸してやるわ。」
T原がもう一度答える。
「しゃー(なし)で、借りてやるわ。」
ピッチャー・ケンシローが投げたノリは、
うまいことT原の口元に当たって、
クラスは爆笑して大団円。
教室の空気というものはあやうい均衡の上に成り立っているといつも思う。