曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

壁面いっぱいの本棚。

父は定年少し前だかに書斎を持って、
その部屋に壁面いっぱいの本棚を作りつけた。
そしてそこに、
本の他に、
30年かけて作成してきたプリントを綴じた茶色い紙ファイルであるとか、
世にも古びたノートなんかをずらっと並べて、
その中に埋もれて何か書きものをするのだった。
父も教員だったので。

さて自分も教員を20年続けてみると、
大切な大切な紙ファイルや茶封筒、
血と汗と涙の結晶であるノートなどがかなり溜まってきている。
自分は文系なので古い資料は大切である。
教材研究は毎年新たに始めるのでは前の回りと同じ所に到達するのが関の山なので、
詳細に授業計画を残しておいてそれに毎年手を加える。
新たな教材ならばそれらの作業に耐えうる資料を作ろうと励む。
他人から見れば汚いノートや紙ファイルでも、
だから到底捨てることはできないし、
できれば時間のある時並べ直してすっきりと整頓したいという欲まで実はある。
父の書斎の壁面本棚みたいなものがあればと思う。

そして恐ろしいことに、
その資料が必要なのは、
あと十数年なのである。

父はあの資料を並べてどうしたろう。
二度と使うことはないだろう。

この地に越してきて12年が過ぎた。
12年経って知ったことは、
人生には限りがあるということだ。
この春休みに押入れを整理して、
たくさんの、
決して捨てることはできないと信じていた資料を捨てた。
二度と見ることはないだろうし、
これからの自分に役立つこともないだろうと知れたからだ。
演劇関係のものが多く、
当時は上演した台本もすべて残しておいたんだなとわかった。
ものすごい量の書き込みがある。
でももう見ないし、
実際もう必要ないんだもんな。

いつか本当に必要なものだけを時系列で並べて、
その中に埋もれて書き物がしたい。
父のようにね。
それが本当は必要ないものだということにさえ気づかないまま。