曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

予餞会リハーサル。

本校にはまだ予餞会というものがあって、
2年生中心で映画一本と芝居一本と制作する。(どちらも20分ものです。)
その「ビデオ班」と「舞台班」の「舞台班」の方に演劇部の2年生が3人関わっている。
「舞台」とはいうけど実際は体育館で生声は通らないので、
先にセリフや効果音を全部録音しておいて、
当日はそれに合わせて身振り手振りをする。
まあ自然どうしても、「生身の着ぐるみショー」みたいな感じになってしまうわけである。
それが今年から生声でやりたいと言ってきたらしい。
うちの部員の声もあったんだろうか。
「演劇部の先生としてそんなことが可能だと思いますか?」
と担当の先生から聞かれたので、
「多分聞こえないと思います。」
と答えておいた。
演劇部は何度か体育館で上演しているが、
かなりニュアンスを消させてかなり正面を向かせて、
それでも1時間の間客の集中を切らせないというのは至難の技だった。
前任校でプロの芝居を体育館に呼んだときにも、
後ろ半分の生徒は何を言っているかわからない舞台を2時間見続けたみたいなことになったことがありました。
でも生徒はやりたいんだそうだ。
もちろん人数分のピンマイクなんてあるわけない。
せっかくやって聞こえなかったらかわいそう、
というか送り出される3年生がかわいそう、
というか聞こえなかったらすぐにまた「セリフ録音」の手数を踏まなければならないだろう。
例年だったら録音は年内に終わっている。
初めての経験に準備は遅れているのである。

さて予餞会も近づいて昨夜は体育館でのリハーサル。
果たして声が通るのか担当の先生方と見に行った。
案の定全然聞こえない。
生徒は体育館の後方から聞いてないからそれがわかってないようだ。
「こんなでいったいどうする気なんだ。」
先生方もみんな苦虫を噛み潰した感じである。
「あ、でもあいつらの声は聞こえる。」
「あ、でもあいつのは聞こえん。」
「ああ、あの子らのは聞こえる。聞こえるヤツと聞こえんヤツがおる。」
しかし私は舞台を見つめながら言った。
「ダメです。あの子ら全部、代役の生徒です。」
「え、声が聞こえるのが代役?」
「…あれは演劇部の生徒です。」
舞台には次から次へと1年生の演劇部員が登場してよく通る声で台本を持って芝居している。
1年生のあの子たちがこんな大きい役で出るはずがない。
第一女子部員が「てめえそんなわけねえだろ!」とか男言葉でしゃべっている。
運動部の2年生男子役員が部活で遅れるため急きょ代役に入っているのだ。
役員になっている先輩演劇部員から指示されたのだろう。
「演劇部…。」
「声が全然違う…。」
先生方も呆然と舞台を見ていた。
その誇らしさ。
いやでも事態が事態なので喜んではいられないんだった。
すぐに女子の完全下校時間(延長版)がやって来てあわただしく女子たちが帰って行った。

さてそのあとに登場したのがサッカー部、ソフトテニス部、ラグビー部の主役を演じる男子生徒たちである。
先生方もしばらく何も言わずに舞台でしゃべる彼らを見ていた。
放送部顧問の先生が舞台前にマイクを3本設置して声を拾ってくれていた。
それもある。
そして聞こえるセリフと聞こえないセリフもある。
けれどもみんなが感じていたのは、なんて力を持った生徒たちだろうか、ということだったと思う。
本校の、
しかも学校行事の中心となる運動部男子生徒たちの、
その底力。
それはこのままでは20分間全校生徒に声を届けるのは難しいけれど。

さてどうなるんだろう。
どうなるにしろ、
もう「セリフ録音振付芝居」はなくなった。
新たな伝統を創ることができるのか。
生徒主導で行く学校である。
その路線で、
できることを手伝おうか。