妹の車で、
母のいる施設に向かった。
「ここ、ここ、この下くぐり抜けるのが好きなの。」
と妹が言う。
車を停めて建物まで歩く途中には葉桜の並木があって、
「ここ桜咲いたらもうきれいでね、前(LINEで)送ったおかあさんの写真撮ったのここよ。」
と妹が言う。
母は3月にずいぶん悪くて、
春分の日に一度見舞おうとして私が微熱を出したので昭和の日に延期、
その間になんだかずいぶんよくなったということで、
入口まで若い男性職員が車椅子で連れて来てくれた。
「あれれ、まさかここまで出て来れると思わんかった、前は部屋でベッドでしか会えんかったのにね。」
と妹が言う。
目は開いているけれどどこか遠くを見ているようなので、
二人で視線の先に立っては話しかけた。
「おかあさん色白いねえ。」
と言ったとき、
二度頷いてくれたので、
たぶん聞こえてるんだと思う。
最初母に向かって妹が左、私が右で「(私は)▢▢(←妹の名前)よ」「(私は)〇〇(←私の名前)よ」と話しかけていたのだが、
途中で何かの拍子に妹が右に来たので私が回り込んで左に行った。
帰りの車の中で、
「途中で場所交代したからなんかおかあさん困っとったね。」
と私が言うと、
「そうよ、入れ替わって話しかけたらちょっと目泳いどったよね。」
と妹も言って、
「ただでさえ似とるのに替わったらいかんよねえ。」
と口々に言って妹がおかしくてたまらないふうに笑うので私もおかしくて笑ってしまった。
実家に帰り着いて兄に「どうやった?」と聞かれ、
二人でその話を報告した。
兄はそれには興味を示さなかったが、
車椅子に乗れて目が合うというのはすごい回復だ、
としきりに嬉しがっていた。