曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

教育の限界。(H15.3.1.生徒会誌「門」掲載 301HRへ )

春、思いもしなかったこの学年の、あなたたちのクラスの担任になった。
始業式後のHRに行こうとすると、あなたたちは廊下に並んでたまっていた。
「何やってるんですか。さっさと教室に入りなさい。」
今にして確信するけれど、あなたたちはあの時、見知らぬ担任を迎えに出ていたのだ。

体育祭の応援練習はちょうど演劇の大会準備と時期が重なる。
生徒主体が伝統とは言え、
グランドでのリハーサルまで一度も顔を出さなかった、
そんな私に「先生、どこかおかしいところはありませんか。」とあなたたちは尋ねた。
「おーい、座れ。」団長の言葉に、あなたたちは私を囲んで座り、
必死の面持ちで私のアドバイスを聞いた。

「幻じゃないの、今時そんな生徒たち。
 そう言えばあの先生グランドの隅で地面に向かってブツブツ言ってました、
 とかみんな噂してんじゃないの。」
と、友人は笑う。

体当たりの熱意で対処しても悪意に打ちのめされるということはこれまで幾度も経験したのだ。
それなのにあなたたちの善意はどうだ。
勉強しましょうと言えばものすごく学習時間が伸びた、
掃除しましょうと言えば断水の時も掃除していた、
そうだこの一年間、私は幻を見ていたんだろう。

私があなたたちに教えることはもう何もない。
あなたたちは私と出会う以前から私よりもずっと徳の高い人間だったからだ。
私は祈る。
あなたたちのこれからの人生が、あなたたちの善意に見合った幸せなものであることを。
そうしてまたほんの少し祈る。
幸せになる力を持つ者は誰と出会っても幸せになるだろう。
あなたたちにとって担任は私でなくてもよかった。
けれど私はあなたたちを愛していたのでどうかほんの少しだけ私のことを覚えておいてほしいと。