曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

記念館奇譚。

記念館3階には「湯沸室」という小さな部屋があって、
現在、湯は沸かせないが、小物置き場として演劇部が勝手に重宝している。
そこへ今日、MDを取りに入ろうとしてK名が大声を上げた。
「開きません!鍵がかかってます!!」

直前に湯沸室に入ったのは私だった。
もちろん鍵をかけた覚えはないが、ノブボタンをプチッと押すタイプのドアだから、何かの拍子にボタンが押されて、そこをちょうど私が閉じてしまったのだろう。
普段鍵などかけない部屋だが、締まった以上、開けねばならない。
記念館各部屋の鍵は、持ち運び用の小さな板に紐でジャラジャラとぶら下げられている。
ところが見ると、「湯沸室」と書いたその穴にだけ、鍵がないではありませんか。
「えー!?」

さあ大騒ぎだ。
中にはビューカムから音響道具から台本から、今すぐ必要なものがたくさん閉じ込められている。
髪留めのピンを伸ばしてピッキングに挑戦してみたり、
スリッパで思いっきりノブを叩いたりしてみたが所詮効果なく、
仕方がない、明日事務室にお願いしてノブを壊してもらおうと観念して練習に戻った。
さて夕方、
帰ろうとしたH子が、練習場所の会議室で、黒い紐のついたとある「鍵」を発見したのである。
「まさか!」と叫んでH子がドアに駆け寄ると、果たして見事に鍵は回り、晴れて「湯沸室」のドアが開いた。
鍵についていた黒い紐が朽ちて切れていたものと思われる。
みんな大喜びで、鍵板の「湯沸室」と書いた穴に、見つかった鍵をしっかり結わえ付けた。

「この鍵、今朝K子が『なんでこんなとこに鍵があるんよー。』って言いよったヤツじゃない?」
「あ、言いよった言いよった!」
「先生、うちのかばんの上にこの鍵あったんです!」
生徒の話を総合すると、この鍵の紐が切れたのは、どうも今朝のことなのだ。
帰り支度をしながら話した。
「なんであの間だけなくなっとったんかなあ。」
「あの時間帯に『湯沸室』に入ったら、なんかイカンことが起こったとか?」
「あ、そうかー、ポジティブに考えると、そういうことよねー!」
私もそうかなあとか思いながら家に帰った。

しかし今、私にはもう一つのポジティブな考えが浮かんでいる。
もしも今日、この騒動がなかったとしたら、
紐が朽ちて落ちていたあの鍵は、多分「湯沸室」とは何の関連も見いだされないまま、どこかへ仕舞いこまれてしまっていただろう。
今日、ドアが締まってよかったのだ。
あのタイミングでなかったら、「湯沸室」の鍵は永遠に失われ、次回「湯沸室」のドアが締まった時には本当に、開けるすべはなくなっていただろう。
んじゃそういうわけで今日、何者かが「湯沸室」の鍵を締めさせたのだろうか。
誰が?・・・神様?
誰に?・・・私じゃん!
ちょっとだけコワイんですけど。