曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

5月の景色の中で。

体調がいいので久しぶりにコーヒーを淹れた。
ガスで沸かした薬缶から一人分の小さなペーパーフィルターに熱湯を注ぐ。
コーヒーがマグカップに少しずつ落ちていくその間、
顔を上げるとリビング越しに窓の外には5月の景色が広がっている。
何度も書くけど眺めがいい。
 
大好きな石手川の公園には背の高い木々がそれはたくさんそびえているので、
今度のマンションからこのうちの一本でも見えるといいなとなんとなくは思っていたけど、
本当に一本見える。
窓を絵としたらその絵のちょうど中央部分に遠く大木が一本見える。
他はビルや家並みに隠れているあれらの木々のその中で、
何かの拍子に中でもひときわ背の高いその大木だけがこの部屋から見える位置に来てくれて、
それを背にしてかわいらしい赤い屋根の家と黒い屋根の家が小さくうまいこと並んでいる。
あの楠の木が瑞々しい新緑の若葉をあれらの小さな屋根の上にもこもこと広げているのを見ていると、
この言葉を使っていいのかわからないけれど幸せというのはこういうことなのかもしれないと思う。
 
二人とも生きることにあまりに一生懸命でいた。
「もっとあなたと一緒にいればよかった」とあの日あの人は言ったけど、
それは若かったから仕方のないことだったね、
駆けて行く、
駆け続けて行く、
そんな日々も必要だった、
あの人は、
そんな日々の間しか生きていられなかった、
若い日々しか知らずに死んでいった、そういうことなのかなんて考えていた。5月の景色の中で。