曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

例の男子部員。

休日の完全下校は5時で、
全校の部活生徒が一斉に校門を目指す。
演劇部の練習も終わる。
今日の私は視聴覚の鍵を締めたら第三教棟全体の戸締りもしなければならない。
でもしんどい。
視聴覚の鍵を締めながら、
もたもたしていて最後に残っていたSに、
悪いが1階の廊下の端の鍵がかかっているかを見てきてくれないかと頼んだ。
既にかかっていたらあそこまで歩かなくていいというものだ。
体がだるくていろんなことを誰かに頼んで生きている。
さてこのSというのは昨年度末に入部してきた例の男子部員である。
最初は幽霊部員だったしとにかく何をやってもダメで、
あまりのダメっぷりに私は全国大会打ち合わせ時の顧問研修会・出場校顧問挨拶の席で、
彼が飛行機に乗り遅れかけたハナシを何の関係もない先生方の前で熱く語ってしまった、そのくらいのダメっぷりだった。
しかし入部後10か月、
今心から言えるが彼、根っから本当にいいヤツなのである。
「わっかりました!」と答えるやいなや仕舞いかけのかばんもそのままに駆け出して、
コーナーを「キュッ」という音を立てて曲がって行く。
階段を落ちるように下りて行く音が聞こえる。
「窓開いてたら閉めながら帰って来てー!」
「ハーイ!!」
ばーん、ばーん、1階で窓の閉まる音がする。
かばんを持って後を追いたかったが重すぎて持てない。
「ごめんねーかばん持てないよー。」と言いながら手ぶらでよたよた階段を下りる。
彼はもう1階廊下の端から引き返していて「鍵開いてましたよー?」と言う。
ああそうか、じゃあ締めに行かなきゃいけないなーと思ったところで、
「どうしましょうか?」
「え、じゃあこの鍵で締めて来てくれる?」
「いいっすよー!!」
ダッシュで行って鍵を締めてダッシュで帰って来る。
その途中で、
「ごめーん、かばんまだ上(2階)なんだー。」
「はいはい取りに行きますよー!」
で、また「キュッ」と靴を鳴らしてコーナーを曲がるとがんがん階段を上って行く。
「あんた元気だなああああ!!」
心から感嘆して言った。
「はい、元気だけが取り柄っすからねー。」と軽く言いながらぼんぼん下りて来た。
こいつは若くて健康で心根の優しい申し分のないヤツだ。
帰りに先生からシャツを出すなと注意されていた。
これが今度の主役である。
膨大なセリフを一週間で覚えられるかはさておいて、
こいつと出会えてよかったなと思う。
越智くんに、
「Sはさ、あいついいヤツだよ。」と言うと、
「Sはいいヤツです。」とゆっくり言った。