曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

チャンク。

史記』は「鴻門の会」を教えている。
「剣の舞」が終わっていよいよ樊噲(はんかい)の登場だ。
私は樊噲が好きである。
たくましい男が好き、というよりは、たくましい男に生まれたかった、というのが本当のところであろうか。
それはさておきそんなわけで、
「頭髪上指(じょうし)し、目眥(もくし)尽(ことごと)く裂(さ)く!」
自然、授業も上機嫌である。
「髪は逆立ち、まなじりは裂けんばかりである!さあこれは誰の、どのような様子を表しているのでしょうか!?」
と生徒に質問する。
「樊噲の、激怒している様子、です。」
正解である。
いい調子である。
「そうですねー!!ものすごく怒っているわけですよ。それにしてもみなさんは、髪の毛が逆立つほど怒ったことはありますかー?」
こう呼びかけるのは文章を自分のこととして捉えさせるためなので、
別に質問ではありません。だから、
「私はあります。」
とつけたして話題を終えて板書の続きを始めたのだが、
私の背中で教室がなんだかザワザワし始めた。
「えー?どうしたんですかー?」
と上機嫌のまま板書を続けていたのだが、
どよめきはますます大きくなっていく。
しかしこちらも年の離れた生徒たちのその時々の興味の対象をすべて知りたいだなんて別に思わないお年頃なもんだからいちいち反応はしません。
振り返って、
「ではどうして激怒したのでしょうかー!?」
と、全く気にせず授業します。
しかしそこでザワザワが最高潮に大きくなった。
なんじゃこりゃ。
よく聞くとザワザワの中から、
「チャンク。」
「チャンクや。」
「チャンク。」
「チャンクやっとったからや。」
「授業中チャンクやっとったからや。」
というような声がだんだん大きくなってきた。
え、チャンクってなんだ。
ああ、英単語帳の名前である。
そう言えば、このクラスはいつだったかあの、2年に1度だか激怒する私が半年ほど前に火だるまのように怒ったクラスではありませんか。
「なんですか、〇〇君、樊噲が激怒したのは授業中にチャンクをやっていたからだと言うんですか?」
「いえ!僕そんなこと言ってません!」
一番前の生徒に軽く聞いてみたのだが思いのほか強く否定された。
さて次に指名する順番は、それがまたちょうどあの日怒られた当人である。
「では△△君。」
生徒たちが小さくおーっと声を上げる。
「樊噲が激怒した理由はなんですか?」
△△君立ち上がる。
みんな注目。
「・・・沛公が殺されそうになっていたからです。」
「そうですねー!!」
というわけで授業はそのまま無事終わったのであった。
 
それにしても「髪の毛が逆立つほど怒る」でまさか自分が想起されるとは。
樊噲になりたいとは思ってたけどそれは「たくましい男」になりたかったわけであって、
「激怒するたくましくない女」ってホントどうなんだろうってちょっと思います。