曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

自分を信じて。(読書感想文3年生選評 H14全校プリント掲載)

 実は私、この言葉が嫌いで、誰かが誰かをこんな調子で励ましているのを聞くと(漫画とか、新聞のヤング・カウンセリングとか)、おいおい、いいのかい自分なんか信じちゃっても、とか思う。

 しかし読書感想文を書くときは、これは別です。読んでいて思うんですけど、みなさん、もっと「自分を信じて」書いてくださいよ、と私は言いたい。読書感想文を提出してもらって読んでみると、まあほとんど感心するものに出会わない。そうしてそれは、書いてる本人には本当はわかっているんじゃないかと思うのです。

 ほとんどあらすじを書いている人。あなたは、「これ、あらすじじゃないかな?まあ、いいかな?」と、思って書いているでしょう、そうでしょう。それから、最初の一枚半くらいは、どうしてこの本を読むに至ったかでページ数を稼ごうとか思って結局ニ枚ちょっとしか書けずに本の内容まで入らなかった人。担任の先生に提出しながら、あんまり読んでほしくないなって、思ったでしょう。また、なかなかいい文章ができたけど、これって読書感想文なのかな、あんまり本と関係ないみたいって思ったあなた。そうです。書いたあなたがそう思うってことは、そうなのですよ。
 
 これらの人々は、「自分を信じて」引き返してほしいものです。一度自分の気に入る感想文を書いてみるといい。時間はかかりますが、その人たちは今時間をかけていないわけですから。
 
 最後に、今回私が最も言いたいのは、今までの三つの例よりはよほどまともに見える作品についてです。
 
 その人たちの文章はしっかりしています。途中まで、感動を予感させることすらある。しかしそれが私たちを失望させる作品になってしまう、その原因は、「聞いたことのある結論に逃げている」というその一点にあります。たとえば、せっかく「アンネの日記」のアンネ自身について、あなたなりの感想を書いていても、その途中、どこかで聞いた結論があなたを迷わせる。たとえば「戦争はいけない。」そうしてラストをそのことに費やして終わってしまうのです。確かに戦争はいけません。しかしあなたは本当にそのことについて書きたかったのでしょうか?「アンネの日記」は例です。これと同じことを、実に多くの人がやっているのです。
 
 世の中には結論めいたこと、これさえ言っておけば間違いのないこと、という言葉が、うようよしています。「地球に優しく」。「勇気を出して」。「思いやりを大切に」。(「自分を信じて」もそうかもしれませんね。)けれども、読書感想文が求めているのは、そんな通り一遍の結論ではないのです。あなたが、あなたの読んだ本の中からみつけた、あなたの結論。それは、もしかしたら、世間で言われていることの逆かもしれません。また、逆であればよいというものでもなく、使い古された「逆」に振り回されている人も多くいます。
 
 自分を信じて書くということ。つまり、「世間よりも自分を信じる我の強さ」が、読書感想文を書く時には必要だということです。