曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

IS “HE” YOU? -読書感想文講座中級編―(読書感想文2年生選評・H21全校プリント掲載)

 5年ほど前に「初級編」を、また3年前には「上級編」を掲載したので、今回は「中級編」を書いてみようと思います。さて、「中級編」に入る前に、復習として今までの二つをかいつまんでまとめてみましょう。
 
まずは「初級編」です。読書感想文を書くのが苦手な人へのアドバイス。くれぐれも「薄い」本を選び、その本の中の好きなエピソードを抜き出してはそのことについて思ったことをちまちまと書き、また次のエピソードを抜き出しては思ったことをちまちまと書いて、原稿用紙を埋めていきましょう。この作業を繰り返せば、普通にいい感じの感想文が出来上がります。夏休み明けには胸を張ってこれを担任の先生に提出しましょう、というようなことを書きました。
 
それから、「上級編」です。本を読むことや文章を書くことが好き、という人たちへ。この人たちに対してはどうしても要求レベルが高くなってしまいます。「素直な感想」を述べただけでは創作作品としての価値は低いので、「素直の先」の感想を書きましょう、とアドバイスしました。「素直の先」の感想とは、社会通念上「当然の結論」ではなく、一瞬、「え、その考えは少しおかしいのではないか?」と思わせるような感想、しかし読み進めば、「ああそうだ、世の中は確かにそのように成り立っている」と思わせ得る感想です。深い主題を持つ本を読み、その主題をあなたが確かに受け取ったとき、そのような感想は成立します。「上級者」を目指す「中級者」のみなさんは、何よりまずそのような本を選ぶことが大切なのです、と、そのようなことを書きました。
 
さて本題です。では、どのような感想文を書けば「中級者」と呼べるのでしょうか。
 
それは、「主人公に感情移入できているかどうか」の一点にかかっています。あなたの感想文の中で、「彼(主人公)」はまさに「あなた」であるしょうか。「中級者」の感想文は、主人公である「彼(彼女)」に起こった出来事を、まさに自分のこととして受け止めることができています。自分のこととして受け止めるからこそ、「自分にもこのようなことがあった」という、自分の体験を書くことができるのです。そしてそのような感想文はよく読む者の心をとらえます。「文は人なり」と言われますが、担任の先生は数ある提出された原稿用紙の中から必ずそのようなあなたの文章に目を留め、あなたの人柄や生活を共感を持って知り、そうしてあなたの感想文をクラス代表に選ぶのです。もっとも、行き過ぎてしまってはいけません。自分の体験のみを書いて終えてしまっては「読書感想文」にはなりませんからね。あくまでもその本の内容や主題から離れずにあなたの体験例を述べることが大切です。
 
余談ですが、この「例を述べる」というやり方は、大学の推薦入試などで課せられる「小論文」においても大変重要になってきます。「説得力のある自分の体験」を例にして結論をまとめた小論文は、入試においても高得点を獲得しやすい。そのためには自分の体験を文章化できる技術を養うこと、その前にまず何よりも文章化に耐え得る自分自身の体験を持つことが大切です。部活動に打ち込んだ体験などはそのよい例ですね。余談を終わります。
 
さて実は、みなさんから提出された感想文の中で「中級者」の感想文と言えるものには、現在大きく分けて二つの潮流があります。一つは「スポーツ憧れもの」、もう一つは「病気克服もの」とでも呼べばよいでしょうか。これらの二つは他の分野の作品に比べて圧倒的に感情移入度が高く、みなさんの体験談もぐっと感動的なものが多くなっています。前者は、優れたスポーツ選手の文章や、主人公がスポーツに打ち込んでいる小説を読んで、まさに自分が今打ち込んでいる部活動等の体験例を挙げ、その感動を述べた感想文のことです。その生徒が必死で部活動に取り組んでいるからこそ、またそのために真剣に悩んでいるからこそ、その体験談は読む者の胸を打ちます。読書感想文としても優れたものになりやすいのです。また、後者は、病気克服の体験談(たとえ肉体的には克服できなかったとしても!)や、病気の主人公が強く生きる小説を読んで、彼らの姿勢に共感して書かれた感想文です。自分や家族、また身近な人たちの病気を例に、真剣に人生を考え文章を綴る高校生の姿もまた、私たち選考委員の胸を大きく揺さぶります。このような読書感想文を書けることが、まずはみなさんの目指すべきところと言えるでしょう。
 
今回の入賞者のみなさんは、すべて「中級者」の上ランクに位置しています。中でもIさんの感情移入の切実さ、特選のYくんの文章の軽やかさ(おそらく彼は「書くこと」を特別なこととは思っていません)は、みなさんに大いに見習ってほしいものでした。しかしそれでも欲を言えば、彼らには、さらにもっと重い本で書いてほしい。
 
もう一度言いましょう。すでに「中級者」となっているみなさん、深い主題を持つ本を選んでください。あなたとかけ離れた境涯を生きる「彼」と「あなた」との間にもしも接点があるとすれば、そしてそれをあなたが見つけたとすれば、それはおそらくあなたの人生の小さな宝物となります。「スポーツ」や「病気」というわかりやすいつながりではないそのつながりこそが、あなたを読書感想文の「上級者」に導く道しるべともなるでしょう。