曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

私が演劇部の顧問であること。

高校には、時々大学や専門学校からのお客様がある。
さまざまな進路情報をくれるので、輪番で教員が応接室で応対することになっている。
応接室には、全国大会の賞状が飾ってある。
演劇部と野球部のものだ。
いきなり大学紹介、という人もいるが、話の糸口にこの賞状を話題にする人も多い。
そうして相手が賞状を話題にするとき、十中十、それは野球部の方の話題だ。

客から見える位置にあるのが野球部の賞状であるというせいばかりではないだろう。
甲子園ベスト4、そのまま「よさこい国体」でも優勝したあの年のメンバーが満面の笑顔でスタンドに駆け寄る、その写真は私の目にも感動的だ。
私は授業中教えたあの生徒、担任をしたあの生徒の顔を思い浮かべて、一つ二つエピソードを紹介したりする。
相手も社交辞令だ。ひどく感心した後、本題に入る。

夕べ、「七人の部長」の「アニメ部長」を演じた生徒の家に、当時の演劇部のメンバー数名とお邪魔した。この春開店したというアットホームなスナックである。
店の引き戸を開けたとたんに、カウンターの中から「まあ、先生、ご無沙汰しております!」と、母親に声をかけられ、恐縮した。
よく覚えているものだと驚いたのだ。
アニメ部長も店を手伝っていた。きれいになっていてこれにも驚いた。
参加者は「七人の部長」の「ソフト部長」と、「ホット・チョコレート」の「ミオ」である。
アニメ部長は手伝いながら時々話に加わった。
私はひどく人見知りをするのでなるべく人と会う機会を避けているような次第だが、彼女らとは無理せず楽しく会話する。
おそらくそれは彼女らが無条件に私を受け入れてくれているからであって、ここまでの好意を示されなければ安心してその場にいることもできない自分というのも情けない。
カウンターで談笑した。
小さな店の一つきりの座敷には、海水浴帰りの親子連れがいる。
お酒は飲まなかった。
お料理がおいしくて、「おなかいっぱい。」と笑いながら、みんなで信じられないほど食べた。
帰り際、座敷から若いお父さんが立ち上がって、なんと私に挨拶に来た。
「この子(アニメ部長)の従兄弟です。演劇部の先生とも知らず挨拶が遅れてしまって。この子が本当にお世話になりました。」
従兄弟と言っても、幼い頃から一つの家で育ったらしい。「年の離れたお兄ちゃんみたいな感じ。私、走るの遅いのに、毎年運動会の応援に来て。」と彼女が笑う。
「僕は『ホット・チョコレート』も見せてもらって、泣いたんですよ。本当にお世話になって。」
若い父親は話を続ける。この家族にとって、彼女が高校時代をこの演劇部で過ごしたということは、一つの大きな事件だったんだ。そのことがビンビン伝わってくる。

私はいつも、自分が演劇部顧問であることを忘れているふりをしている。
あの熱気、あの感動、誰に言っても本当に理解はしてもらえないからだ。
そうだ、演劇部なんて、ただの一つの部活動、特別なものじゃない、特別だと思っているのは私だけ、だからそのことを、みんなに悟られないようにしよう、私にとって演劇が、演劇部だけがこれほどに大切だなんて、誰にも知られないようにしよう、そんなふうに思ってきた。それが私なりの、こわれやすい宝物の守り方だ。

けれど、そんな努力が功を奏して、ふと気がつけば、本当に忘れていたのだろう。多くの本当のことを。
秘密にしておきたいくらい大切なあの日々は本当にあったのだし、私は今もその続きを生きている。