薬指の下は手相上「太陽丘」と言って芸術を司る部分である、
そこに伸びる縦線は「太陽線」と言って縁起がいいらしい、
くらいまでは知っていた。
私には濃くはないが「太陽線」らしきものは前から刻まれていた。(若いうちは出ないらしいので生徒とかにはないんだよ。)
さてこの夏に向かう頃、
全国大会は近いし芝居はうまくいかないし普通に仕事が多すぎて手相なんて見ている暇はなかったのだが、
ある日ふと気がつくとその「太陽線」に太くて短い「横線」が2本入っている。
しかしご存知(?)の通り「横線」は手相上「障害線」と言われ縁起が悪いものなので、
忙しさもあいまって気にしないことにしているとそのあたりに薄いかさぶたができてきたのでますます気にしない(見えんから)でいたところ、
全国大会の直前にかさぶたがはがれてその中に、
横線と縦線(片方が太陽線)が交わって見たこともないような「四角紋」が深くくっきりと現れた。
「スクエア」である。
「スクエア」は手相上よく言う人と悪く言う人がいる特殊紋だが、
これはよい印としか言いようがない。私はなぜか瞬時にそう思った。
そうとしか思えなかった。
私の手のひらは薄いのにもかかわらず太陽丘はおもちのようにぷっくりと色よく盛り上がり、
そこに糸を強く押し当てたように「太陽線上のスクエア」が深く深く刻まれていた。
調べてみると、
ネットでは「一発逆転線」と紹介され、
「太陽線にこの四角紋(スクエア)があらわれたときは、大成功、チャンスをつかみ取る暗示」「誰から見ても『奇跡としか言いようがない』というほどの幸運に恵まれて、全てのことが突然うまくいく」とまで書かれている。
「これまでにコツコツ努力を重ねていること」の「結果が一気に出てくる暗示」だと。
7月10日の「四国高等学校演劇祭」までこの芝居は迷走していて、
おまけに忙しさと暑さの中で無理をすると体を壊すことが経験上深くわかっているので無理もできず、しかし考え続けた。東京のホテルに着いてからも部屋の中で考え続けた。
台本が確定したのは全国大会上演の2日前の朝で、
芝居が完成したのはその日の新宿高校での通し稽古だった。
上演自体は私としては8割くらいの出来だったかと思ったが、
審査結果発表のとき、
「ふわっと本校が呼ばれるような気がした」のは、
この「スクエア」のせいもあるかもしれない。
隣にいた越智くんに、
「私ね、わかっていたよ、わかっていたんだよ!」と言ったことを覚えている。
さあ一度愛媛に帰って仕切り直して今度は国立劇場である。
それはそれは苦労して国立劇場のサイズに合わせて芝居を創り直しリハーサルまでなんとか成功させてきたのだが、
ここにきて本番直前の楽屋にて、
なんだかみんなの緊張が高まってきたのである。マズい。
さてこれは何かほぐしてやらねばならんなと思い、
集まったみんなを前に私は重々しく口を開いた。
「これまで隠していましたが、この芝居は成功します。」
「ええ!?」
「と言うのは私の『手相』のことなんですが、」
と、ここで大爆笑。
意図通りではなかったがめっちゃほぐれた。
その後は上演まで、
「先生、私の手相も見てください!」
「私も私も!」
「生命線って何ですか??」
と大盛り上がりで緊張がどこかへ行った。
上演は全国大会よりもうまくいって、
きっとこれも「スクエア」のおかげであろう。