曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

岐阜県立岐阜農林高等学校「躾~モウと暮らした50日」

この台本はどうやってできたのだろう。
素朴な農林高校の日常をそのまま板に載せた、わけではない。
冷徹な、そしてまだ若い、大人の目が感じられる。
多分ケラの影響も受けている。
すごい生徒か、若い顧問か、さて全くの見当違いか。
何にしろその才能に驚いて観ていた。

昨日の二本でかなり満足していたのだが島根大会、後から後からとてつもない芝居が出てくるものだ。
職員室に帰って「全国どうでしたか」と聞かれ、とにかく最初に説明したのがこの芝居についてである。
「牛をね、農林高校で育てるんだけど、
 乳牛だから、オスだとね、
 生まれて50日で殺されなきゃならないんですよ。」

人物造形がリアルで感心した。
主人公だけでなく「先生」「桜本君」「川島さん」「家畜商さん」など、脚本上の役割が効果的で、
また、役者もみんなうまかった。
特に主人公「山田さん」役の生徒の演技が、
「いるいる、こんなイヤなヤツ!」というリアリティにあふれていて、とにかく笑った。
無対象で表現されている牛との「掛け合い」にしても、
まあ「熱演の真逆」というか、
いかにもやる気のなさそうな力の抜け加減がかえって現場の真実味を伝えているのだが、
それらがまたたまらなくおかしいのだ。
会場は笑いに笑った。

そんな笑いの中にあって、芝居には切実なテーマが貫かれていた。
殺されなければならない牛。
獣医になれない桜本君。
酪農家を継げない川島さん。
身の周りに起こり得る「がんばってもどうしようもない」さまざまなことがらを、この芝居は取り上げる。
舞台の上だけで起こるニセモノの解決を、私たちは見飽きるほど見てきた。
ウソのない解決とは、もう希望という形でしか表現できないのかもしれない。

「この長良の川に磨かれた君。」
「金華の風、山田の上に吹きすさぶ。」
「負けるな負けるなと吹きすさぶ。」
「負けるな負けるなと吹きすさぶ。」

「負けるな」という応援歌、「負けない」という気持ちだけが、そんな現実への真実の答えたり得る。
そしてその答えを、役上の人物のセリフでなく、応援歌の口上で叫ばせて終わるこの芝居、
やはりただもののしわざではないと思うのだ。

私は幕が下りた後まで泣き続けていました。