曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

私はフィリフヨンカよ。

おお、ムーミンとして生まれて、お日さまが出ているあいだ、
波の中で踊りはねることは、なんと幸福なことでしょう。(ヤンソン作「たのしいムーミン一家」より)

とまあこんなふうに、
ムーミンシリーズには何の前置きもなく、
ムーミンというのがどうも個体名だけでなく、
何か一族の名称をも兼ねているのだということが、
当たり前のように描かれています。

そんなわけでフィリフヨンカも、
フィリフヨンカという外見や気質を持った生き物の総称であり、
もちろんフィリフヨンカという女を指す固有名詞でもあるわけです。

フィリフヨンカは、他の多くのフィリフヨンカがおそらくそうであるように(実際には登場しない)、
他人との交流を好みません。
家の中に閉じこもって何か気に入った物に囲まれて安全に暮らそうとしています。
人とうまくやっていこうとは、時には思うのだけれども、

ベランダでは、みんながベンチにこしかけて、コーヒーをのんでいました。
フィリフヨンカは、みんなを見まわしました。
スクルッタおじさんのぼうしはしわだらけ、
ホムサの髪はもじゃもじゃ、
ヘムレンさんの太い首は、朝のつめたい空気にあたって、ちょっぴり赤みがさしています。
みんな、そろっているわ。それから、ミムラねえさん、まあ、なんてきれいな髪の毛なんでしょう―
ふいに、フィリフヨンカは、どっと、からだじゅうのつかれがでてきて、
(だけど、あの人たち、みんな、わたしをきらいなんだわ)と思いました。(ヤンソン作「ムーミン谷の11月」より)

本当に驚いてしまう、これが児童文学なんだろうか、
この女は、私じゃないか。

今ふうに言うと、フィリフヨンカは「軸のブレる人」です。
フィリフヨンカにはフィリフヨンカなりの真実の力があると思われるのですが(そんなふうな人物造形がまたリアルです)、
彼女はそれに気づかず常に不幸をしょっています。

さて、
「ブレる女」の代表がフィリフヨンカならば、
そう、「ブレる男」の代表はヘムレンさんです。
そして、「ブレない女」の代表は、美しいミムラ
彼女に悩みはありません。
フィリフヨンカが料理して、ミムラが夜中に台所のピクルスをつまみ食いしていても、
みんなに愛されるのはもちろんミムラです。
最後に、「ブレない男」の代表は、そう、あの、スナフキンなのです。

今日は本当にフィリフヨンカ的に気が滅入っていましたので、
フィリフヨンカにあるまじくビールを飲んでみましたぞ。