曽我部マコトの言わせていただきます!

そんなに言いませんけど。

「きょうは塾に行くふりをして」で私が果たした二つのこと。(「シアターねこ」への寄稿その2)

 この群像劇の主人公は「いぶき」だが、タイトルの主語は「ミナト」くんである。講評でも評価されたこの「ズレ」は、実は偶然の産物だった。座付の越智が「演劇部のリハーサルの話」にするか「塾をサボった生徒の話」にするかで迷っていたのを、「塾をサボってリハーサルの助っ人に行く話なんだね!」と私が早トチリでくっつけてしまったのである。しかしそれを聞いた越智はあっと言う間に芝居の原型を書き上げた。

 

 写真では、下手の「ミナト」がリハーサル中の演劇部員たちを見つめている。異分子である助っ人「ミナト」は最終的に彼らに共感し、その思いがラストの奇跡を呼ぶという筋立てだが、県大会を終えての問題点はまさにその「最初の異分子感」だった。何分ミナト役の生徒は心底心優しい謙虚な青年なのであって部員たちも全員きわめて仲がよろしい。異分子どころか最初から一体感丸出しなのである。なんとか「ミナト」を一見冷たく見える人物に仕立て上げる必要があった。ハタと思いついたのは、三谷幸喜の「笑の大学」、西村雅彦演じる「向坂」のキャラクターである。(「きょうは塾に行くふりをして」をご覧になった方の中にはここで「なるほど!」と膝を打たれた方も多いのではないだろうか。そうなのですよ。)休校中に入学してきた彼らはコロナのため大会作品以外全く(全く!)上演の機会はなかったが、唯一(唯一だ!)「笑の大学」の一場面を練習したことがあった、それを思い出したのである。これは大当たりで、優しい彼がけんもほろろな物言いをする、その意外さ面白さに練習は爆笑に包まれた。「ミナト」というキャラクターの誕生だった。

 

 以上が「きょうは塾に行くふりをして」で私が果たした、特に印象深い二つのことである。早トチリが執筆のきっかけになり、またコロナのために一つだけしか練習できなかったその芝居がキーマンのキャラクターを決定づけた。うまくいく時はうまくいくということだろうか。本当は私が果たしたことではなく、これらはすべて偶然のなせる業、神の手がいろんなコマをあるべき場所へそっと置いてくださったということなのだろうか。30年近くも泣きながら芝居を創ってきた私を、神もあわれと思し召したということなのであるのだろうか。                     2023.1.シアターねこ新聞

 

リハーサルで危機に直面する演劇部員たちを見つめるミナト   撮影:森恵美子